大学では対面授業がようやく再開。コロナ禍でも有意義な社交の場をもつために【福田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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大学では対面授業がようやく再開。コロナ禍でも有意義な社交の場をもつために【福田和也】

福田和也の対話術

 

■対話の技術で問題なのは、やはり初対面のときにある

 

 対話の技術が問題になるのは、やはり初対面だったり、あるいは長くつきあっていたとしてもお互いに一線を引いているような関係においてでしょう。こうした相手と、仕事以外の場所でつきあうことを社交という名前で一括することが出来ると思います。

 社交というと、解りにくいかもしれませんが、仕事の役割とは別に、不特定多数の人とつきあうということです。パーティのような場所だけではなく、バーや呑み屋、クラブ、サロンなどいろいろな人が来る場所で対話をするということ、話をしてそこから次の遊びなり企画なりを動かしていくこと、それが社交という行為です。

 今後、社交はますます大事になっていくでしょう。というのも、一方で情報革命が進み、人が対面で会う機会が少なくなるという傾向がすさまじい勢いで進んでいるからです。

 対面機会の減少は、仕事の上では飛躍的な効率化をもたらしますが、同時に人からある種の調和を奪ってしまうのです。私たちは、普段、常識とか良識と呼ばれる感覚的判断によって生活しています。一々あらゆる事物を三段論法で推論して判断する人はほとんどいません。みな直感的に判断をしてしまうのですが、そうした瞬時の判断を支える基準が常識なのです。そして常識はアプリオリに私たちの中にあるのでなく、あくまで人づきあいの中から生まれるのです。

 

■自ら作り出す「場」

 

 常識と云うと解り難いかもしれませんが、いちいち反省や分析を経ることのない、その場、その場での判断というような意味です。ですから、この常識という言葉をバランス感覚と云い直してもいいと思います。要するに当意即妙を要求される場面での、瞬間的な判断の基準になるもの、理知というよりもむしろ感性として結晶したもののことですね。

 云うまでもなく、会話はこれらの感覚によって支えられています。こうした文章を書いておきながら、このような云い方をするのも変な話ですが、結局会話なり、対話なりといった事柄は実際の対話の場でしか育まれないものです。

 感性とか常識というものは育み得るものなのです。というよりもそうした無意識的なものに対してこそ意識的にならなければなりません。自動車の運転を習ったことがある方は、最初は手順を思いだしながらやっていた操作が、次第に無意識でも出来る形で身体にしみついていった過程をおぼえていらっしゃるのではないでしょうか。会話などもそれと同じことで、今皆さんが使っている言葉遣いや話しぶりといったものも、無意識的であるようで、実は長い間に人為的に形成されたものなのです。だとするならば、その感覚を天然のものとしてでなく、人為的な事柄として捕らえ、反省しなければなりません。

 けれども同時に実際に車の運転をしなければせっかく養った無意識な運転感覚がなくなってしまうのと一緒で、対話においても実際に使う機会を多く求めるのでなければ、対話にかかわる常識も枯渇(こかつ)してしまいます。

 それでは、社交とはどんな場所か。仕事とか取り引きといった機能を離れた場所であるということを、申しあげました。

 機能を離れた場所とはどういうことか。

 その特徴を一言で云えば、あなたが属している社会的立場を離れた場所ということです。

 仕事場では、他者との関係は、上司とか、同僚といった役割、立場によってそれぞれ秩序づけられていますね。

 あるいは買い物といった取り引きの場所でも、顧客と売り手といった立場があり、あるいは学校でも、教師と生徒といった立場があります。

 そうした立場がない、あるいは一応ないことになっているのが、社交の場所です。そこでは、人間が社会で生きていくにあたって必然的にもたざるを得ない、機能的な立場というものを一旦カッコに入れて、人同士がつきあう。

 と申しあげると、今時そういう場所がどこにあるのか、と思われるかもしれません。

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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